美術棟には魔物が住んでいる
本校舎から少し離れた東側に、ひときわ存在感を放つ大きな美術棟がある。天井は高く、奥行きはキャッチボールができるほどに広い。L字型の空間の奥には、美術棟の空気を一気に吸い込んでしまいそうな窯(かま)が、時折ゴウゴウとうなりを上げながら、主(ぬし)のようにどっしりと鎮座している。
ろくろやプレス機、無骨な電動工具。整然と並ぶイーゼルは、まるで主を守る護衛兵のようだ。何十色もの絵の具、研ぎ澄まされた鉛筆。そして、先輩たちの情熱が染み付いた、絵の具の飛び散る巨大なテーブル……。
そんな空間で、美術講師は生徒たちにこう語りかける。「思いついたイメージを形にしなさい。答えは無数にある。君たちにしかない価値で、私を驚かせてほしい」それは、まるで猛獣使いのようだ。
「イメージ?」「価値あるそれ?」生徒たちは白紙のスケッチブックを前に悩み、葛藤し、時にはトイレに逃げ込む。美術には、あらかじめ用意された「正解」も「終わり」もないからだ。あるのは、自分という正体不明の存在と向き合う苦痛だけだ。
しかし、悩み抜いた先に、生徒たちはふとかすかな光を探り当てる。その瞬間だ。胸のスターターロープを全力で引き絞るチェンソーマンのように、エンジン全開で、真の人間的自由を求めるかのように描きまくる!暴れまくる!
脳内に米津玄師の爆音がループし、些細な悩みと共に世界からノイズが消えていく。自分たちの内に潜む魔物、それはどんな形でもいい「君たちだけの美しいモンスター」を解放し、色彩と線の異種格闘技戦を繰り広げるのだ!生徒たちの底知れぬ輝きに気づく場所。美術棟とは、そんな空間である。